そんな地殻変動のさなか、10 年以上にわたって SEO とデータ分析に向き合ってきたのが、YouTube「SEO 研究チャンネル」の運営でも知られる平 大志朗(たいら だいしろう)様です。
今回は、生成 AI の本格活用をテーマに多方面でご活躍されている平様に、「SEO と AI 時代のデータを見る力」についてじっくりお話を伺いました。

まずはじめに、現在の活動内容についてお伺いしました。
平様は株式会社 Tech Fabric の代表取締役として、従来の SEO コンサルタントという枠を超えてご活躍されています。その立ち位置は、まさに AI と検索の橋渡し役。AI を活用した DX に携わりながらリサーチや検証を行い、その結果をデータで可視化したり、企業の投資判断や戦略設計に活かしてもらうためのコンサルティングを提供するなど、活動の幅は非常に多岐にわたります。
平様はこれまで、株式会社 CINC で創業メンバー・経営陣の一人として、SEO を軸としたビジネスを長年牽引してきました。その役割に一区切りをつけたのが 2025 年の 1 月。そこから、今の立場で「AI × 検索」というテーマに専念する現在の活動スタイルに移行したそうです。
SEO そのものから完全に離れたわけではありませんが、平様がいま特に向き合っているのは、個別のテクニカル対応やコンテンツ制作のディレクションといった現場のオペレーションではなく、その一歩、二歩上流のレイヤーです。
「AI 検索が出てきた中で、自社は何を基準に判断すべきか」「どこに先行投資をするのが合理的なのか」「AI 検索の影響をどう計測し、どう意思決定に反映すべきか」といったテーマに対して、データと仮説をもとに伴走する。
今まさに注目の、AI 時代の検索戦略を支援する第一人者でもあります。
平様の名前を一気に広めた取り組みが、YouTube の「SEO 研究チャンネル」です。
このチャンネルが生まれた背景には、2020 年のコロナ禍という大きな環境変化がありました。

2020 年の春、日本でも外出自粛が本格化。東京の街からは人が消え、対面での営業やセミナーはほぼ一斉に止まりました。当時、平様のチームは SEO コンサルティング事業を展開しており、本来であれば積極的に営業して案件を獲得していかなければならないフェーズでした。しかし、そのための手段として前提にしていた「対面で会う」「イベントで話す」といった従来の営業スタイルが、一瞬で通用しなくなってしまったのです。
そこで考えざるを得なかったのが、「営業そのもののやり方を変えなければならない」ということでした。人と直接会えない状況でも、オンライン上で認知と信頼を獲得する新しいチャネルが必要になる。そう感じたときに目を付けたのが、当時はまだビジネス活用が今ほど一般的ではなかった YouTube でした。
リモートワークの普及によって、ビジネスパーソンが YouTube で「学び」を得るスタイルがこれから当たり前になっていくのではないか。そうした仮説のもと、「SEO の知識を体系的に学べる場」として始まったのが「SEO 研究チャンネル」です。
結果的にこのチャンネルは、平様自身のブランディングだけでなく、会社としての営業チャネルの変革にもつながり、「コンテンツ発信そのものを営業の一部に組み込む」というモデルを確立するきっかけにもなりました。

平様が本格的に SEO に取り組み始めたのは、2012 年頃のことでした。その時点で既に、「SEO においてデータを見る必要性は十分にあった」そうです。
その根底には、「検索アルゴリズムはブラックボックスだ」という考え方があります。
Google は検索アルゴリズムの詳細を公開していないため、仮説の余地が大きいのです。
その結果として、「ユーザーのためになるコンテンツを作りましょう」「良いコンテンツが大事です」といった抽象論だけが一人歩きし、現場での意思決定に活かせない、という問題も生じていました。
こうした状況の中で平様が強く意識していたのが、「感覚ではなく、データで語るコンサルタントでありたい」という姿勢です。経営判断に耐えうる根拠を提示するためには、客観的なデータが必要であり、そのデータを取得・解釈するためのツールが不可欠だと考えていました。
そこで 2013 年、当時勤めていた「Speee」という会社のコンサルタントという立場でありながら、社内契約を待たずになんと自分のポケットマネーで Ahrefs を契約。
Moz や Majestic などと比較検討した結果、
- 取得できるデータ量が豊富であること
- データの更新頻度が高く、常に新しい情報を参照できること
といった点から、最終的に Ahrefs に決めたそうです。
この「自腹で Ahrefs 導入」は、平様にとってひとつの転換点でした。
被リンクやオーガニックキーワード、評価されているページの傾向といったデータをもとに、クライアントに対してより具体的で説得力のある提案ができるようになり、それが成果としても返ってくる。「データに裏付けされたコンサルティング」を徹底するスタイルは、この頃に形作られていきました。
Ahrefs を使った印象的なプロジェクトについてお伺いしたところ、「ひとつの大きな成功事例がある」というよりも、「多くのプロジェクトでじわじわ効き続けてきた」という表現が近いと語る平様。

特に重要なのが、競合分析における「粒度」の設定です。
単に「このサイトが伸びている」と見るのではなく、オーガニックキーワードやトラフィックをディレクトリ単位で分解しながら、
- どのテーマのコンテンツが、実はサイト全体のトラフィックを支えているのか
- どの企画記事が「集客のエンジン」になっているのか
- どのページに自然なリンクが集まり、ブランドの評判形成にも寄与しているのか
といった勝ち筋の中身を丁寧に読み解いていきます。
他のツールを使えば、「なんとなく伸びているサイト」や「ざっくりとしたトラフィック傾向」を知ることはできます。しかし、Ahrefs を使って細かく掘り下げていくと、ある種「秘伝のタレ」に近い部分が見えてくるそう。
たとえば、「どの領域にどんな切り口でコンテンツを仕込んでいるのか」「リンク獲得とブランド認知を同時に満たしているコンテンツはどれか」といったレベルまで浮かび上がってきます。
競合の立場からすれば、できれば見られたくない部分かもしれませんが、コンサルタント側としては、この「数字の裏側にあるストーリー」を読み解くことで、クライアントにとって本当に意味のある戦略が描けるようになります。
重要なのは、ここで見えた勝ちパターンをそのままコピーすることではありません。
クライアントが持っているデータベースの量や質、社内のエンジニアリングリソース、事業の KGI・KPI との整合性などを踏まえて再設計し、「現実的に実装できる戦い方」に落とし込んでいくことこそが人が考えるべき点で、コンサルタントの大きな存在意義にもつながるのです。
データが示しているのはあくまで「事実」であり、それをどう解釈し、「うちならこう戦う」という具体的な選択に変えていくか。ここにこそ、データを見る力が問われます。
長く SEO に携わっていると、どうしても「経験則で判断してしまう」危うさも出てきます。平様自身も、「自分の頭の中のパターン」に引きずられそうになる場面があると率直に語ります。
たとえば、競合のディレクトリ分析をしている中で、「特定のカテゴリでフリーワード検索系のページが大きく伸びている」という事実が見えたとします。ここで経験がある人ほど、「同じような仕組みをクライアントにも導入しましょう」という提案をしたくなります。
しかし、その前に立ち止まる必要があります。
実際にクライアント側に目を向けてみると、
- そもそもフリーワード検索向きのデータベースを持っていない
- システムを大きく改修できるだけのエンジニアが不足している
- 会社として追っている KGI・KPI と、その施策がすぐには結びつかない
といったリアルの制約条件が存在するからです。
ここを踏まえずに、競合と同じことをやろうとしても、「言っていることは分かるけれど、誰がどう実装するのか」というところで止まってしまいます。
このように、「データが示す方向性」「自分の経験則」「クライアントの事業構造や組織」という三つを照らし合わせた上で、「現実解」として実装できる戦略に変換すること。その変換作業が、データを見る側の大きな役割になってきます。

一方で、お話の中では AI や MCP のような新しいテクノロジーに対する冷静な視点も伺うことができました。
AI は、ダッシュボードの数値を整理したり、レポートの素案を自動生成したりする場面では非常に有効です。しかし、社内の力学や意思決定のプロセス、人間関係といった「組織の文脈」までは理解していません。
SEO は多くの場合、
- SEO 担当者
- エンジニア
- 事業責任者
- 営業やカスタマーサクセス
といった複数の人間が関わる総合戦であり、「合意形成のゲーム」としての側面も大きい領域です。AI は、そのゲームの駒の一つではあっても、盤面そのものを理解し、全員を動かすところまで代わりにやってくれるわけではありません。
だからこそ、
- データの一次解釈やたたき台づくりは AI に任せる
- そこから「人を動かせる言葉」に翻訳し、社内の合意形成まで持っていく部分は人間が担う
といった役割分担が重要になってきます。

「データを見るという行為を、自分はどう捉えているか」
この問いに対して、平様がまず挙げたのは、「ブラックボックスだからこそ、見なければ正しい意思決定ができない」という考え方でした。
SEO の世界には、抽象論だけが先行してしまう場面が少なくありません。
「ユーザーのためを考えましょう」
「良いコンテンツを作りましょう」
こうした言葉自体は間違っていませんが、それだけでは現場の判断材料にはなりにくいのも事実です。
だからこそ平様は、つねに以下の順番を意識しているとのこと。
- まず、客観的なデータで事実を押さえる。
- そのうえで、自分の経験則と照らし合わせ、「なぜそうなっているのか」を考える。
- 最終的には、クライアントの売上や利益といった現実の成果につながる判断を支える材料として、データを使う。
データを見ること自体が目的化してしまうと、「分析は進むのに現場が動かない」という状況に陥ってしまいます。そうではなく、「クライアントの成功確率を高めるために見る」という軸を持ち続けること。これが、平様が一貫して大事にしている「データを見る哲学」です。
若手の SEO 担当者に向けて、「データとの向き合い方」についてアドバイスを伺ったところ、平様からすぐに出てきた言葉がとても印象的でした。
それは、「表層で終わらないこと」。
たとえば、Ahrefs で競合分析をしていると、「このディレクトリが伸びている」「この領域から大きな流入がある」といった発見があるかもしれません。
そこで「では同じようなディレクトリ構造を真似しましょう」と考えるだけでは、単なる表面コピーに過ぎません。
そこから一歩踏み込んで、「なぜその領域が評価されているのか」「なぜそのコンテンツ形式が選ばれているのか」「なぜそこにリンクが集まっているのか」と、“なぜ”を何度も繰り返しながら、数字の裏側にあるストーリーを探っていくことが重要です。
その上で、自分なりの仮説を言語化し、信頼できる上司や仲間と議論し、実際に小さく試してみる。そして結果を振り返り、自分の経験値として蓄積していく。こうしたサイクルを繰り返すことで、単なる「ツールの見方」にとどまらない、本当の意味での「データを見る力」が養われていきます。
ツールが出してくれるのはデータであって、答えではない。
答えに近づけるためには、使い手の思考と経験がどうしても必要になってきます。その前提を理解したうえでツールと向き合うことが、AI や高度な解析環境が当たり前になっていくこれからの SEO において、ますます重要になっていくはずです。
今年、平様は中国、オランダ、サンディエゴなど、いくつかの海外 SEO カンファレンスに参加されました。そこで感じたのは、どの会場でもテーマがほぼ「AI 一色」であるというリアル。
登壇者たちが口にするキーワードも、「AI」「エンティティ」「ブランド言及」「オフサイトでのブランド可視性」といったものが中心で、かつては盛んに語られた「Canonical」や「インデックス」といったテクニカル SEO の話はほとんど前面には出てこなくなりました。
一方で、海外の現場で強く感じたのは、「SEO 市場はまったく縮小していない」という事実でした。むしろ、「SEO はこれからも重要だ」「支援会社やツールベンダーも、まだまだ成長余地がある」という前向きな空気感が会場全体にあったといいます。

日本では、「SEO 市場はもう小さくなってきているのではないか」といった言説を目にすることもあります。しかし平様は、それについて少し違う見方をしています。市場そのものが縮小というより、変化への適応コストが上がったことで、縮小しているように見える面もあると感じています。
UI やアルゴリズム、検索の入り口は変わっていきます。しかし、「人が情報を探し、何かと出会う」という本質的な行動は変わっていません。だからこそ、「SEO は終わった」と切り捨てるのではなく、「形を変えながら続いていく」と捉えるほうが、現実に即した見方だといえます。
インタビューの最後に、「これからの SEO 業界に対して、どんな期待や課題を感じているか」を伺いました。

もちろん、いまのキーワードは「AI」です。
平様自身、「AI に踊らされるつもりはない」と言いつつも、生成 AI や AI 検索が SEO の世界に大きな影響を与えていくことは間違いないと見ているそう。
ブランドレーダーのようなツールが示す「AI 検索におけるブランドの可視性」や、LLM の回答の中でどのブランドがどのように言及されているか、といった新しいデータが、今後の SEO 戦略の重要な指標になっていく可能性は高いでしょう。

そうした新しい種類のデータを前にしたときに求められるのは、「それをどう読み解き、どの KPI と結び付け、事業戦略に反映していくのか」という思考力。
それは、これから SEO を始める若手にとっても、長くこの業界にいるベテランにとっても同じ課題です。
「変化から目をそらさず、データと向き合い続けられるかどうか」
今、試されているのはまさにこの点でしょう。
SEO は終わっていません。
むしろ、AI という新しい要素を取り込みながら、これからも事業成長に貢献し続ける重要な領域であり続ける。長年データと検索に向き合ってきた平様の言葉は、そんな未来への確信と、静かな熱量に満ちていました。
平様、貴重なお話をお聞かせくださりありがとうございました!